『舟を編む』の話。

舟を編む

舟を編む

 去年のことですが、新聞で『広辞苑』の校正をする人の記事を読んだことがあります。23万項目の一つ一つについて、文字、データなどをチームで検証する仕事だそうです。その仕事の厳しさゆえの緻密な仕事ぶりは、短い記事の中でも充分に感じられるものでした。
 この作品で描かれるのは校正者じゃなくて、『大渡海』という国語辞典を作ろうとする編集者ですけど、「大いなる言葉の海を渡る舟」を作りゆかんとする、個性豊かな人たちの姿がユーモラスに描かれていて、面白く読むことができました。髪ボサボサで世間知らずだけど、言葉に対すると驚異の才能を発揮する主人公だったり、チャラ男でお調子者の同僚だったり、途中から辞書編集部に異動した女性社員、監修の松本先生、お目付け役のような存在の先輩・荒木さん、それぞれの人がこの『大渡海』という「舟」を作りゆかんとする、それぞれの形で力を発揮していくようになる、そういう姿がすごく輝いている小説だと思います。
 もしかしたら、自分も仕事の中でそういう何かの形を残したい、そんな願望があるのかもしれません。話には細かいところで無理がある、という書評をいくつか読みましたが、それでもこの小説が印象に残ったのは、そういう無理を超えた、自分たちの信ずるところのままに生きるという姿に共感できたからじゃないか、そんなことを思いました。

 今年はいろいろ小説も読んでいきたいですね。
 ではまた。