夢のタスキは、託された。

 さゆの卒コンをライブビューイングではありますが見ることができました。
 前回の更新で卒コンを前にしての気持ちを「ロッキー」の「Going the Distance」*1みたいな気持ちと書いたのですが、最後の最後までモーニング娘。として走り続けるさゆの姿、もしかしたら終演後に真っ白な灰になってしまうのではないかとまで思わせる、そんなさゆを見届けたかったのかもしれません。
 ですが、これほどまでに壮絶にして娘。魂を感じたライブはなかったように思います。
 
 「モーニング娘。はアイドルにならなかった女子の夢」
 そういう言葉を目にしましたけど、実際、映画館の客席の半分は女子でした。一人で来てた人もいたかな。自分のような昔ながらのハロヲタのような人って少なかったかもしれません。
 オープニングではオープニングVを流さずに、音楽かけてステージ上にばーんとスポットを当てて登場、そこから階段を下りて花道を歩く。映像はそれを正面から捉えていて、さゆを先頭にしたその行進ぶりに思わず口から洩れた「なにこの最強軍団」。ほかのアイドルが黙って道を開けそうな強い気を発しているように見えました。そこから1曲目「TIKI BUN」から数曲は本当にパーフェクトな感じでできていたんじゃないかと思うんです。「時空を超え宇宙を超え」や「明日をつくるのは君」とかは演出効果もしっかりマッチして切なかったし。さゆだけじゃなくて後輩のメンバーも声や気迫が出ていたように見えました。
 でも、そこからさゆがりほりほの唇を奪って映画館を悲鳴と驚きの声で埋め尽くし、裕ちゃん、舞美ちゃん、そしてれいなからの祝福を受けた後、そのあとのメドレーからは一転しました。
 「好事魔多し」ではないですけど、さゆが右足を押さえたのが見えたんですね。でも、最初は靴のトラブルかと思って。そうしたら、さゆがステージに1人残ってほかのメンバーは花道の先で踊っている、そこからフクちゃんが戻ってツーショットで歌う。その場面も、要は「次の娘。への継承」をイメージさせる演出なんじゃないかって自分は思いました。さゆが動けないんじゃなくて、残るっていう筋書き。そんなに深刻に思っていなかった。そうしたら今度はステージの階段に体を預けるようにしたまま動かないでパフォーマンスしているから、衣装じゃなくて足に何かがあったことはわかって。スタッフがさゆの足に何かやってるのが、映像でもしっかり映っていたから、応急処置でテーピングでもしているのかって思いました。
 開演前の14時ごろに悪いニュースがあって。紅白歌合戦の出場者が発表されて48系4組、PerfumeももクロE-girlsが出場を決め、娘。が出場できないことが決まった。処置を受けるさゆが、娘。の姿が、相手の猛打にノックアウトされて倒されてしまうボクシングのシーンと重なって浮かんでしまって。このまま娘。はさゆと共に沈んでいってしまうのか……のような気持ちで見ていました。でもさゆは立ち上がっているし、そのあとの曲でも普通に踊っていたし。またうずくまるシーンがあるとは思っていませんでした。

 アンコールがずいぶん長く感じました。それはさゆの足の異常がそうさせるのだろうと思っていて。だから着物を着て出てくるとは思わなくて。まぁ着物来るんなら時間かかっても仕方ないよなぁ、みたいな感じで見てました。「見返り美人」からの卒業セレモニーだけど、今考えれば草履はいていましたし、立っているだけでも辛いっていうのはそうとう痛かったのかもしれない。
 さゆがうずくまった時っていうのは生田が挨拶するときだったんだけど、その前がりほりほで、そこで「道重さんに嫉妬してました」って言ったときにさゆは思わず踏み出している。痛みが走ったのはそこかもしれない。で、照明が落ちて客席がざわついて、そこにさゆみコールが。映像はその暗くなったステージからメンバーの誰かが客席に向かってさゆみコールを求めているのを、薄暗いまま映していて。
 明るくなるとさゆは立ち上がっていて。そのままセレモニーが終わると照明が落ちて。でも映像を見ると客電はついていなくて客席もまだダブルアンコールを求めてさゆみコールを続けていて。無理するなさゆ、もう十分だって自分なんかは思っていたんですけど……。

 最後のスピーチは、最大の名場面だったと思います。特に「私は『後輩に見せたい景色がある』と言ってきました。私が見せたかったのは今日のこの景色を見せたかった。これが私の最後の恩返しです。今日は私の卒業だからこういう場所でできたけれど、後輩たちはいつか単独でもこういう景色を見れると思うし、私が見たことのない大きな景色を見れると思う。その時、私はその景色の一部になると思います」は、その時の映像がステージのさゆの後ろから見た客席を映し出していて、さゆの背中のその向こうに一面のピンクの光がアリーナを埋めていて。つまり、それがメンバーたちへ残した目標であり、希望の道なんだって。
 スピーチはもしかしたらさゆの経験値が大きく発揮された場面なのかもしれません。プロフィールを掘り下げると、さゆってデビュー10か月でテレビでレギュラー出演していて*2、2年のブランクを経た2006年からは「こんうさピー」を8年やっていたわけで、話すっていうことは経験値を持っていたんですね。でも、どれだけ準備したのかわかりませんけど、さゆの娘。愛を感じないではいられない、堂々たるスピーチ。まわりの女子がみんなハンカチを持って目を押さえていて。
 そこからの「赤いフリージア」そして後輩が出てきての「歩いてる」から「Happy大作戦」に自分も涙を流さずにはいられなかった。
 
 正直言うと驚いた。こんな壮絶な卒コンになるとは思ってもいなかったから。
 パーフェクトなパフォーマンスを見せることは出来なかったのかもしれないけど、でも、さゆは負けなかった。長い娘。人生の間で勝てないことは多々あったかもしれない、でもこれがモーニング娘。なんだってことをたくさんの人に刻み込んだんじゃないだろうか。そんなことを考えています。
 そして未来への希望を示して去ったさゆに心からの拍手を贈りたい。

 「モーニング娘。はアイドルにならなかった女子の夢」というのならば、夢のタスキはフクちゃんを先頭とした娘。たちに託されて、そして新しい物語が動き始めます。
 その、これからの娘。の物語は、きっと光に満ちているような気がしています。

参考)【コメント全文】道重さゆみ、「さゆみのファンの人たちが、ほかの誰でもない、みんなでよかった。」 | モーニング娘。'16 | BARKS音楽ニュース
   セットリストはナタリーさんでどうぞ。

*1:ロッキーとアポロが闘っている時に流れる曲。試合が終わった後に流れるこれと似てる曲は「The Final Bell」。

*2:中澤裕子と共演していたテレビ朝日Mの黙示録」を1年間。メジャーデビュー前のPerfumeがゲストに来たこともある