本屋ゆえの悩み、の話。

テレビ東京で30日に放送された「カンブリア宮殿」ジュンク堂書店の工藤社長と池袋店の田口久美子さん登場。同業者にとっては衝撃的な内容でした。
店に行った人はわかると思いますけど、広大な品揃えを支える棚がずらっと並んでいて、その一方の平積み台があまりないのがあの店の特徴なんですけど、その大元は

  • 売れスジの本が入って来ない。だから専門書を中心にするしかなかった。

という現実でした。で、それを突き詰めた結果として、この店は今でいうロングテールに近いものになって、従来の店舗を駆逐するという結果を生んだわけです。もっとも最初からこのやりかたで快進撃だったわけでもないようで、池袋に出店してからの2年くらいは社員にボーナスが出せなかったという話を聞いたことがあります。だから棚の作り方も含めて本当に試行錯誤の末の快進撃なのだろうと僕は思います。そう書くと、じゃあお前のところもそうすればいいじゃないか、という考えもあるんでしょうけど、僕の勤務先の広さはジュンク堂池袋店の20分の1以下です。同じことはとてもじゃないけどできません。ジュンク堂も全部が全部巨大店舗というわけではないのですから、どこか探して棚のつくりを探ってみたいと思います。
 そんな放送から数日後に「以前お宅で注文した本が他の店で並んでいる、何でお宅には入ってこない」とクレームが。注文は通常通りに出ているのですが「何で店頭にも並べないんだ」と。客注で出した方が店頭用より早い訳ですから実情から言うとナンセンスな言い分ではあるのですが・・・・・・こういうことを言われるのがつらい。お客さんにとっては特別な書籍ですけど、その特別はお客さんの数だけあるわけで、そこに各種の事情が重なると断層のような感情のもつれが生まれます。このような問題はそういう中で起きると思います。本屋の中の人で、その問題で悩んだことのない人なんていないと思う。だから、ジュンク堂と比較された他の店がいろんなブログで「くず本屋」とか言われているのを見るのは心が痛みます。その店にはその店の、それこそジュンク堂にはジュンク堂ゆえの悩みがあるわけですから。
 ただ、田口さんの知識と行動は尊敬すべき点がいっぱいあると思う。昔のバイト先(書店)で「『わからない』とは言うな」と言われたことがあります。「お客さんはわからないから聞くのであって、聞かれた人が『わからない』と言ってたらダメじゃない」と。もちろん「知ったかぶりをしろ」と言う意味ではないのですけど、それだけの努力はしなさいということだと思います。番組で出てきた「伊藤仁斎」を店のPCで検索すると5件出てきて、「童子問」はその中のひとつだった。5つの答えの中からその「1つ」に絞り込む、お客さんとのやり取りの中で田口さんの頭はフル回転しているはずである。自分も同じようにやれるかどうかはわからない。でも、田口さんにはなれなくても、本屋の人間として少しでも近づきたいという思いと誇りは常に持っていたいと思います。

もう10年近く前に僕はジュンク堂の社員採用に応募して不採用になったことがあります。
今にして思えば、あの頃の僕は今以上に無知でした。
今でも無知な気はしますが、その自分が田口さんの下で働いていたらどうなっていただろう、と放送を見てからふと思いました。