インクのにおいなんか感じない。の話

 ちょっと前に、以前の勤務先が求人を出していたので見てみたのですが、その紹介文の内容の痛々しさにがっくりしました。その文章が紙の本の良さを説明するのに「手に取る感触、立ちのぼるインクのにおい〜」という表現を使ったからです。自分も10年以上本屋で働いてきたけど、本からインクのにおいなんか感じたことはないし、それは自分の鼻が悪いわけでもないと思います。いつからあの店は印刷所になったんでしょうか。
 多分、店のトップがそういう文章を外部に書かせたのだと思うのですが、自分はその文章の本に対する愛着とは正反対の、平気で本を投げ、スリップを散らかし、レジカウンターに飲み物を持ち込むといった態度を見てきました。それだけに、余計にこの紹介文に対して痛々しさを思います。同時に、そういう店で働き、叱責に耐え、それでも本屋を好きでいた自分はなんだったのだろう、という思いにとらわれます。
 そうしているうちに、ふと思いがよぎりました。もしかしたら、自分がその店から放出されたのは、自分が本屋として働く能力がなかったのではなく、そういった店から解放されたのかもしれない、と。
 だから、あの店から放出されたことを、自分の敗北と捉えるのはやめることにしました。
 気づくまで、長い時間がかかりました。
 強がりの裏側で、社会に対する無力感を感じていましたが、そうではない、自分を必要としている場所は必ずある、という根拠のない自信が、いま生まれています。
 そこを目指して突き進んでいきたいと思います。

 ちょっと内容が変になったかもしれませんけど、書き残しておきたかったので書きました。
 ではまた。