「気仙沼ミラクルガール」の話。

気仙沼ミラクルガール

気仙沼ミラクルガール

 東日本大震災から、もうすぐ5年になります。
 大きな被害を受けた場所の一つ、宮城県気仙沼市を拠点にするアイドルであるSCK GIRLSを題材にした小説が発売されるというのを運営のツイートで知ったのはつい最近のことです。それが表題の「気仙沼ミラクルガール」。作者は「パパと娘の7日間」などの作品で知られる五十嵐貴久。実話を小説化するイメージがあまりない人で「意外だ」ってツイートしたら、作者から「確実に面白いので読むように。損はさせない」とリプライが返ってきました。
 SCKはアンジュルム佐々木莉佳子がかつて所属していたグループ、といえばわかりやすいかもしれない。といっても、彼女、そしてハロプロのような全国展開のアイドルになった子みたいな人は出てこないし、小説自体はフィクションだから、この子が莉佳子のモデルっていうのは自分はよくわからなかった。ツイッターとかではこの子、っていうのは出てきたんだけど、自分なりの調べだと何人かに分けてエピソードを盛り込んであるような感じがしました。ノンフィクションじゃないからそれは当然あり。作者に聞けるなら聞いてみたいですけど。
 物語はサトケンさんといわれる地域では有名なヤクザまがいのおっさんが「気仙沼にアイドルグループを作る、それで活気を取り戻す」って言い出したことをきっかけにして、仮設住宅に引きこもっていた詩織と、ミュージシャンをあきらめて気仙沼に帰ってきた「リューさん」の視点を切り替えながら描かれます。でも中心になるのはサトケンさんの無茶苦茶な行動で、経験なし、ノウハウなし、資金なし、気持ちだけで突き進むっていうことが面白かった。それと一緒に意識が成長していく、それが加速していくような感じがあってか、中終盤は一気に読み切ってしまいました。
 実際のSCKのエピソードにどういうものがあったかというと、それはよく分かっていない。ただ、「震災に便乗したインチキアイドル」みたいな炎上事態は実際にあったと言われている。でも、見ている人は見ているし、そこで何かの影響をあたえる存在になれる、アイドルはそういう存在だと思う。だから、そこで負けなかったことが大事なんだ、と言えるのではないかと思う。

 あと、読んでいて気付いたのは、自分の思い込みっていうのは結構いい加減なんだなってことを改めて思ったことです。文の中で「気仙沼から仙台までは新幹線を使って2時間半かかる」というのに驚いて、新幹線とか使ったりしないでしょとか、東京の間違いじゃないのかって思ったんです。でも、改めて調べていると実際にかかるみたいだし、東京から仙台も新幹線で2時間くらいで行けてしまうということを知って。気仙沼宮城県でも北部の岩手県との県境の町で、自分が思い込んでいたのは、石巻とかと一緒になっていた場所でした。自分たちは知っているようで何も知らないんだってことを改めて思いました。

 あとがきを読むと、SCKのことを知って、小説にしようって思った作者が働きかけて、今回の小説は生まれたのだと言います。作者が実話をベースにした小説を書くのは初めてとのことですが、俺が書くっていう思いで、勢いよく書いた感じのする小説だったと思います。気持ちの良い小説でした。

ではまた。