舞台「何日君再来」の話。


この舞台は泣ける。
国とか民族のルーツとか、それぞれの正義を背負った故に対立する。でも、そのどこかで俺たちはなぜ戦うのかという重い気持ちが、残っているのだろう。自由になりたい、一つになりたい、誇りを持ちたい、信じたい。熱くぶつかり合うその気持ちが、テレサ・テンの歌と共鳴し、僕の涙腺を何度となく緩めた。

それぞれの役には背負ったものがある。そこに準じようとする情熱が、筧さんをはじめとする出演者のガンガンと飛びだしてくる早口なせりふまわしに現れている。その中に飛び込んだよっちゃん。ステージ上に余裕は無いように見えた。思えば2001年5月、ところは同じ日生劇場。そこで見たよっちゃんは、絶望的とも思える空虚な演技だった。それ故に、それ以降の娘。の舞台は全回避。「リボンの騎士」すら躊躇した、結局行かなかった。そんな自分に足を運ばせたもの、それは辻希美降板による代役という状況への同情ではない。責任を全うしようとする彼女を見たかったのだ。
 パンフレットの中に挟みこまれたよっちゃんの頁。そこに寄せられた木村信司(宝塚歌劇団 脚本・演出家)の言葉にこうある。

石川くんへの言葉にも書きました。舞台人は舞台に現れたものがすべてです。稽古期間が短かったなんて言いわけにもなりません。「モーニング娘。」のリーダーとして、数多くのお客様を前にしてきた君は、その厳しさをよく分かっていることでしょう。
そのうえであえてこう言いたい。厳しく、言いわけがきかないからこそ、人生のすべてをかけるに値する舞台の空間へ、ようこそ。ここには昨日も明日もありません。今しかないのです。今、君の持っているものを、とことんまで出し尽くしてください。

 彼女が持てるものを出し尽くしたかどうかは分からない。でも、その舞台の上に絶望的に空虚な演技をした彼女はいなかった。彼女も熱くぶつかり合う気持ちの一部をちゃんと担っていたのを感じた。そして、幕が下りて、テレサ・テンの歌が思いもかけず口をついて出た。
 ゆえに、この舞台は泣ける。


劇場売りのパンフはよっちゃんの頁だけ新しく挟み込んであるので、「いしよし」で並べて撮ってみました。