彩陽さんのステージを見てきました。の話

 12日に名古屋の日本特殊陶業フォレストホールで行われた、高垣彩陽さんのコンサート「relation of colors」に行ってきました。名古屋に行ったのはいつ以来なんでしょうか、思い起こすのも大変なので書きませんが。
 ただ、こうして名古屋まで数年ぶりの遠征を敢行した、それだけの価値は十分にあったと、はっきりと確信しています。
 

 彼女は、構えを決める。
 曲が始まる。
 約4分半。振りを決めて曲が終わる。
 拍手。
 そして、僕は大きく息を吐く。
 
 公演の序盤はそんな状態。「overture」で入場し、「ソプラノ」から「光のフィルメント」、「Be with you」と続く序盤。アイドルのライブのように大きな声が上がるわけでもなく、いい意味の緊張感の中、歌う彼女を息を呑むかの如く見入っていた。なんとなく、フィギュアスケートを見ている時に近い感覚だったかもしれない。もちろん舞台は氷じゃなくて、パッチワークカラーの板の上。彼女はブレードではなく、声に感情をのせて表現していた。僕も腕組みしながら見ていたわけでもなく、首とかひざとか、体は音に合わせてリズムを取っていた。だけど、サイリウムを振っていたわけでもなく、本当に舞台上の彼女だけを見ていたような気がしている。そして曲が終わると湧き上がる大きな拍手。彼女の歌は飛んだり跳ねたりじゃなく、そうやって聞く感じの方が合っているように思う。
 そして高校時代にミュージカル部という部活に参加していた思い出を語り、その思い出の曲として歌ったのが「サウンド・オブ・ミュージック」から「The Sound of Music」。そして「オペラ座の怪人」から「Think of me」*1。彼女の高い声がよく伸びる。その曲の終わると、座って聞いていた客席が立ち上がって大きな拍手を送った。僕は背筋にゾクッとしたものを感じた。本当にドラマの1シーンのようだった*2
 この日の客席は満員になったわけではなかった。ただ、最後の一音まで大切に聞いていた。変なことをやって気を引こうとすることもなかった(少なくとも自分の周りでは)。そこがすごくいいステージになった一つの要因かもしれない。
 曲は関わった人への感謝の思いが込められたスローなナンバーである「Bright」。僕の中では一番好きな曲なので、本当に最後の最後まで聞いていたかったのだが、彼女は衣装替えのために袖に引っ込んでしまったのは少しばかり残念に思った。

 間奏曲といってもいいのかも知れない。彼女が引っ込んでいる間、ヴァイオリンが彼女の曲を演奏していた。「君がいる場所」「ソプラノ」。そして「Meteor Light」にはキーボードがベートーヴェンピアノソナタ「月光」を、「たからもの」にはショパンの「別れの曲」を合わせてきて、それがビックリするほどよく合っていた。
 
 衣裳を変えて登場した彼女は短めの黒のドレス。スカートの左半分がレインボーカラーになっている。たぶんこれは出演したミュージカルの「ZANNA」に影響受けたのだろうと想像できた。曲は「Sound of Mind」。ここからいくつか盛り上がる曲が続き、彼女も小刻みに腕を動かして踊り、跳ね、客席も盛り上がる。続いて歌われた「Meteor Light」になるとイントロでオイ!オイ!の声が客席から飛び始める。でも、それは決して大暴れになるようなものではなく、どことなく節度のあるものだったように思えてならない。といっても決してこのセクションがつまらないものではない。むしろそれまで抑えてきたものを開放するような感じで叫んでいたように思えた。自分としても最近よく聞いていたリズムであっただけに、体が慣れているのか、かなりノリもよく腕を振っていたように思う。
 終盤戦に入ると「わたしだけの空」「たからもの」「君がいる場所」とパーソナルな内面を持った曲が並んだ。「わたしだけの空」はソロ曲として初めて披露した曲でもあり、彼女曰く「原点」の一曲なのだそうだ。内省的な歌詞と若干の揺らぐ声から、別れと記憶をテーマにした「たからもの」。そしてデビュー曲である「君がいる場所」にステージは回帰していく。この曲が本編の最後の曲となった。
 アンコールにこたえて登場した彼女が、バンドメンバーの呼び込みを経て最初に歌った曲は「世紀末オカルト学院」のOP曲「フライングヒューマノイド」だった。MCの中でも言っていたが、この曲は「君がいる場所」とOP曲・ED曲という関係を持つ。それだけでなく、この日は「つながり」を非常に意識していたように思う。それはまた「いとおしい人のために」(「ふしぎ遊戯」主題歌)を紹介した時も「アラタカンガタリ」と同じ渡瀬悠宇の原作ということを強調し、それが語られた途端に客席の女子が黄色い声を上げた。それだけ彼女と世代の近い女子には影響の大きかった作品なのだろうということはよくわかった。
 最後の曲は「夢のとなり」だった。彼女のエッセンスをいっぱい詰め込んだような曲の最後、♪ラララのリピートの中で彼女は大きく左右に手を振った。客席も同じように手を振った。こういうシーンでは客席の中に手の振り方が左右逆になる人は少なからずいるのだけど、この日はそうではなく、だれもが同じように手を振っていた。誰もが彼女のことを思い、彼女の歌に思いをのせて一つとなって手を振っていた。
 
 終演のあと、外に出る。夜風がやけに気持ちよかった。
 彼女は歌に乗せて自分の思いを放ち、自分たちは客席でそれを全部受け止められた。ツアーはこの先、横浜、そして千葉へと続いていく。でも、この先のステージは同じようなものにはならない。この日のステージは、舞台の上も下もなく、あの場所にいた人たちの手で、思いのこもった"relation"という糸によって作り上げられた、ただ一つのパッチワークのようなものだからだ。

*1:「月のなみだ」のカップリング曲としてリリースされている

*2:もしかしたらこの次の曲「名もない花」の終わりだったかもしれない。だが、こういったシーンがあったことは確かである